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コラム「私のクールジャパン」

渡辺敬子

世界を席巻するMOKUBAのリボン

MOKUBA アーティスティックディレクター渡辺 敬子

MOKUBAは1967年に設立され、50年にわたり、最高品質のリボンを企画、生産している会社です。特に、1990年パリに「MOKUBA FRANCE」をオープンして以来、ニューヨーク、バルセロナ、トロントにもショールームを持ち、世界のモードをリードするパリ、ミラノ、ニューヨーク等の数多くの有名デザイナー達のコレクションに使用されています。
 転機になったのは1990年「MOKUBA FRANCE」のオープンでした。当時海外に店を出す企業は、アパレル業界全体を見ても限られていましたが、私が父の会社MOKUBAに入ってすぐ85年にパリ市内の問屋街の店を視察したところ、雑然として在庫管理もされておらず、扱っている品も当社製品の方が優れていると感じたことから、これはチャンスと思い、パリで新しい形態のお店を作りたいと強く意識したのがきっかけです。

MOKUBA 本社ショールーム MOKUBA 本社ショールーム

 MOKUBAの製品数は、幅・色の違いを含め約50,000点、リボンの他にパスマントリー、レースなど、多くのものがありますが、その全体を貫く統一感を、その中でも特にカラーの統一を最も重要視しています。そのため、デザイナーは一人だけ(創業からしばらくは父だけ、その後は私だけ)です。人間の脳は最初見た目から入ります。どういう風に見せて、組合せを考えていただくか、それを考えた製品の並べ方を構築するのは容易ではありませんが、感性に訴えかけるためには、統一感のあるプレゼンテーションがなによりも大切です。
 そこで整然として無駄がない-一歩お店に入ったときに整然として選びやすい-空間づくりを目
指しました。甘いテイスト、和を想像させるようなものを一切排除し、「一体どこの国の会社だろう?」と思わせた後、「あ、日本の会社なの?格好いいじゃない、Made in Japanいいじゃない。」と思わせるようなテイストにしました。
 こうして準備したパリのショールーム開店の前日に、ファッション関係者にお披露目をしました。その際、まずお客様にMOKUBAのロゴが入った小さいセラミックのハサミをお渡しし、好きなだけ店のリボンを切っていただくようにしました。そしてそのハサミもリボンに下げそのままプレゼントしました。これが人を呼び込み、招待状を送った400人のうち40人来たら大成功だと言われていたところ、300人以上の方に来ていただきました。
 そしてお帰りの際には、プレスリリースとリボンのパッケージをお渡ししました。リリースには「MOKUBAは日本の会社で、どういう歴史があって、ここで何をするのか」をきちんと書いて持ち帰っていただきました。感性はリボンで伝わりますが、紙面で私達が確実に伝えたいことを、お店にいらした方の手元に残したいと考えてのことです。
 そこで大きな話題になったのが、プレスリリースと一緒に用意したリボンのパッケージです。このインパクトが非常に強く、あまりに好評だったので、これをパリコレのように、年1、2回MOKUBAの今を感じる製品を「スペシャル・リボン・パッケージ」として、ずっと送り続けています。私達は直接売り込みに行くという営業活動はしていません。パッケージを開けた瞬間に、インスピレーションを感じていただき、受け取られた方たちがそれぞれのクリエーションに使ってくださればと考えています。回を追うごとに数が増え、今では約2,600名の世界中の顧客の皆様にお送りしています。

MOKUBA FRANCE MOKUBA FRANCE


MOKUBA NEW YORK MOKUBA NEW YORK

MOKUBAはもともと、日本テイストということを意識していません。どちらかというとヨーロッパ向けです。国内・海外向けで製品を変えることなく、現代性、今を感じさせる製品を出すということに徹しています。一度作ったものは原則として在庫を持ち続け、いついかなるときもお客様のニーズに答える、完璧なものを作って完璧なラインナップをそろえお客様の手元にとどける、それが父の代からのMOKUBAの哲学です。
 製品は全てMade in Japanで8割は自社
生産、その他パスマントリー、レースなどもオリジナルデザインです。どれをどう組み合わせても、色味も合うし、バリエーションも大変豊富です。また、有害物質が入っていないなど安全性にも気を配っています。そして、ビジネスで大切なのは、納期をきちんと守ること。それらを含め全てにおいて誠実な仕事を続けて
います。
 気がつくと、世界中のいろいろなデザイナーの皆様に使用されています。それも最新のものばかりではなく、例えば10年前にデザインしたリボンが今使われていたりします。“リボン=MOKUBA”のブランドイメージは内外で確立され、2005年毎日ファッション大賞では「ほとんどのデザイナーがMOKUBAのリボンを使用し、世界を席巻した」と賞していただきました。
 人ができないものを作る。日本人として、誰もしていなかったことをする。ただ良いものを作るだけではなく、誰もできないことをする。そして、それを海外に持っていき、ビジネスにして、それを誠実に続けていく。この哲学がクールジャパンといえるのではないでしょうか。

PROFILE

渡辺 敬子(Keiko Watanabe)

MOKUBA アーティスティックディレクター

学習院大学大学院修了後、1985年「株式会社木馬」に入社し、現在、常務取締役。
入念な作りの多様なリボン・レースなどの企画・製品化を手がける。
2005年毎日ファッション大賞受賞。