コラム #6
2015年5月18日公開
日本の食文化は宝物
三井物産株式会社 顧問槍田 松瑩
◆趣味のダイビングと魚釣り
大分でのアジ釣り
私は小さい頃から海が好きで、趣味と言えばスキューバダイビングや魚釣りなど、海に関連したものが多い。夏休みの旅行の行き先も世界中の海辺ばかりで、娘たちに「また島なの・・・」と言われる始末である。私の海好きは魚好きにもつながっており、魚釣りには食欲と二人連れで今でもよく出掛ける。釣りの楽しさは釣ることそのものにもあるが、釣った新鮮な魚をさばいて美味しく食べる事は最高の楽しみである。自分が釣って食べた魚を挙げてみると、鯛、鯵、鮃、鱚、鯖、太刀魚・・・ときりがないが、いったい我々日本人が食べている魚の種類はどのくらいの数になるのだろうか?
日本は本当に魚資源に恵まれた国である。国土こそ狭いが、経済水域では世界第6位の広さを持っている。また調理法も、生で食べる刺身や寿司にはじまり、煮る、焼く、揚げる、蒸す、すり身等々大変にバラエティに富んでいる。美味しい和食を食べる時、日本人に生まれてきてよかったとしみじみ思う。
◆ベルギーのシーフードフェアで見たもの
それに引き替え世界の魚食事情はどうだろうか?2年ほど前に世界最大のシーフードフェアの一つで毎年ベルギーのブリュッセルで開催される「ヨーロピアン・シーフード・エキスポ」を視察した。そこで一番驚いたのが、展示されていた魚の3~4割がサーモンであるということだった。これにスズキや黒鯛といった白身魚を加えると展示の半分程度を占めていた。この現実を目の当たりにして日本の魚食文化がいかに多彩で素晴らしいものであるかを再認識することになったが、問題は多くの日本人が、我々の持つこの「財産」に気付いてないということである。
その証拠に、このフェアには世界中から1,500以上の企業が参加していたが、日本からはわずか2社しか出展していなかった。我が国の水産業が国内市場しか見ていない良い例と言えよう。一方で、中国勢からの出展物の中には、高品質の「Made in Japan」のイメージを利用する意図か、日本製と見まがうような大きな日本語の文字をパッケージに刷り込んだ商品がいくつも見られた。このような状況を放置していてよいものだろうか?
ベルギーのシーフードフェアにて
◆世界の和食レストラン事情
海外の和食レストランについても同じことが言える。世界中で「和食ブーム」が起きている今、どんな都市でも和食レストランのないところは無い、と言っても過言ではない。しかし、その内容は様々だ。先日モスクワ近郊で行った和食レストランは金色の壁で、羽織袴姿のカザフスタン人が料理を運び、何料理ともいえない料理がなんと一皿8000円だった。
もちろん良心的で日本からの転勤族や出張者のオアシスになっている和食居酒屋は世界各地にあるし、アフリカ、ガーナの首都アクラでは、料理だけでなく店の設えから食器まで、日本にいるのかと錯覚するような素晴らしい和食レストランに出会った。
◆和食の認定制度
とは言え、日本料理がどんなものかを知らない人が開いた和食レストランが、世界中に雨後の竹の子のようにできている。これは由々しき事態であり、和食にも、例えば“真のナポリピッツァ協会”のような専門の認定制度ができないものかと常々考えている。そのような制度があれば、正式な和食の調理法を学ぶために外国の人たちが日本に留学に来るのではないだろうか?また、海外に和食の専門学校を作るというのも一案であろう。
和食は一昨年、世界無形文化遺産にも登録されたが、本当の和食を世界に広めるためにはまだまだ工夫が必要で、ビジネスとしても、もっと発展させたいと思う。
日本列島のまわりの海に生息する様々な魚をそれぞれの特性にあわせて美味しく調理する知恵や技、日本の宝とも言える真の和食の“クールさ”を我々はもっと認識して大事にしていくべきではないだろうか。
PROFILE
槍田 松瑩(Shoei Utsuda)
三井物産株式会社 取締役 / クールジャパン機構 取締役
1967年4月に三井物産に入社。海外研修員として米国ダートマス大学で学んだ際の異文化・多文化経験がその後の人間形成とキャリア・プランに大きな影響を与えた。30代半ばに英国に5年間駐在した後、主に電力プラントや情報産業分野を中心に多国間ビジネスの推進に注力。
2002年に代表取締役社長に就任。仕事の質にとことん拘った「良い仕事」を通じて、全社体質と社員の意識改革を実行。
2009年より取締役会長、2015年3月末に会長を退任。2013年よりクールジャパン機構 取締役 兼 海外需要開拓委員会 委員長。