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コラム「私のクールジャパン」

松山 良一

インバウンドとクールジャパン

日本政府観光局(JNTO)理事長松山 良一

◆日本政府観光局(JNTO)の課題


長年に亘る政府一丸となったインバウンド振興策が実を結び、日本に対する関心が高まり、2015年の訪日外客数は1973万7千人で、過去最大の人数となった。訪日外客数2000万人の目標達成が視野に入ってきたことを踏まえ、安倍晋三首相を議長とする訪日外国人旅行者の拡大に向けた具体策を検討する「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」では、訪日外国人数を2020年に4000万人、2030年に6000万人に増やす新たな目標が定められるなど、インバウンドは新たなステージに入ったと言える。
量的拡大も大事だが、質の向上を如何に図るか。訪日外客を如何に全国津々浦々に誘客し地方創生に貢献するか。急増する個人客に如何に満足してもらいリピート客になってもらうか。こうした新たな課題に日本政府観光局(JNTO)は取り組んでいる所である。


◆日本の魅力発信について


JNTOの使命の一つは、日本ブランドの売込み、即ち日本と聞いて「日本に行きたいなぁ」と思わせるイメージを、ターゲットとする顧客に如何に届けるかである。どのようなイメージを発信するかが肝要であるが、その際、JNTOは『捨てる勇気』と『外国人目線での発信』を提唱している。
まず、捨てる勇気であるが、日本の魅力は多様性であり、多くの魅力を多層的に兼ね備えている。こうした魅力をあれもこれもと発信したのでは、相手に伝わらない。日本の魅力はこれですと、たとえば、クールジャパンですと、それ以外の多くの魅力は捨てる勇気をもって絞り込んで発信すれば、クールジャパンに興味を持った外国人の誘客に繋がる。実際に訪日してから、クールジャパン以外の魅力に日本で出会うことで、新たな感動の発見にもなるだろう。訪日外客を全国津々浦々に誘客する際にも、各地域の持つ多彩な魅力を捨てる勇気で絞り込むが必要あるが、地域の皆様には自信と誇りを持って、絞り込んだ魅力を発信して下さいとお願いしている。イタリアは都市国家の名残で、地域毎に違う文化、食があるが、人々はそれぞれの地域の魅力を自信と誇りを持って自慢している。地方創生とは、地域住民の自分探しの旅、お国自慢でもある。
次に外国人目線であるが、日本人旅行者と外国人旅行者の興味、目の付け所は必ずしも一致しない。インバウンドは外国人の誘客であり「彼らが行きたいなぁ」と思う素材、イメージを発信するべきでないだろうか。
数年前の事だが、観光庁がASEANの観光に携わる政府関係者を招待し、いわき市で会議を行い、バスで山形に案内し温泉とサクランボ狩りを楽しんでもらったが、彼らに何が良かったと聞いたところ、「途中のバスからの風景に感動した、桃源郷に来たみたい」という声が挙がった。日本人にとり、バスからの風景はどこにでもある、ありきたりの情景であるが、長年手塩にかけて、農家の人達が育んできた農村風景は貴重な財産だと認識するエピソードである。

世界遺産富士山

この写真は、世界遺産富士山の写真であるが、この撮影ポイントはタイからの観光客が発見したと言われている。場所は、日本人が普段下車しない富士急の下吉田駅から徒歩20分にある公園である。タイ人に言わせると、富士山と桜、京都を思わせる五重塔が一度に堪能できるポイントだということで、SNSを通じた口コミでこの写真が広がり、タイ人をはじめ多数の外国人が押し寄せる有名撮影ポイントとなった。今では、2015年の日本版ミシュランガイドの表紙にも使用されている。
最近、外国からの個人観光客が全国各地を訪れ、日本人があまり知らない所にも口コミ情報をもとに訪問している。我々にとってはありきたりの日常生活にも外国人は興味を示している。インバウンドとは、日本人も気がつかなかった魅力・価値をあらためて再発見させるありがたいものでもある。


◆インバウンドとクールジャパンとの連携について


JNTOとクールジャパン機構は2014年に事業連携協定を結び、連携を強めている。日本の魅力の一角を占めるクールジャパンを活用し、海外での日本のファンを増やし、日本への誘客を狙ったものである。地方の魅力を伝える放送コンテンツの海外展開等に関係省庁が協力し、地方への誘客を図りたいと思っている。
クールジャパンは相当浸透して来ており新たなステージに入って来たと思う。即ち、このコラムが「私のクールジャパン」とある通り、クールジャパンの概念が広がりすぎており、各人各様の解釈で何でもクールジャパンの様相もある。その狙いを含め、再定義の時期に来ているのではないだろうか。
クールというのは、外国人から見て、そのように感じてもらうことが肝要であり、日本人が殊更、クールであると言わないほうが良いのではないかとも思う。
JNTOとクールジャパン機構の連携については、機構の積極的投資が実り、マレーシア、中国等にジャパンモールが近々立ち上がる予定であるが、こうしたプラットフォームを活用し、現地での日本ファンを増やし、次に、本物を体験すべく訪日誘客、地方への誘客に貢献したいと思っている。


PROFILE

松山 良一(Ryoichi Matsuyama)

日本政府観光局(JNTO)理事長
1949年生まれ。鹿児島県鹿児島市出身。
1972年東京大学経済学部を卒業し、三井物産入社。1995年イタリア三井物産社長、1997年から在イタリア日本人商工会議所会頭を務め、1999年三井物産広報室長、2001年三井物産情報総括部長兼営業事業部長、2004年米国三井物産副社長兼情報産業本部長、2005年三井物産九州支社長、2006年三井物産理事兼九州支社長を歴任する。2008年には駐ボツワナ特命全権大使に就任し、南部アフリカ開発共同体日本政府代表を兼ねる。資源外交の最前線に立ち、日本企業へ南部アフリカへの投資を求めた。2011年10月より現職。